巷で人気のあるラブコメは、ハチミツとクローバー然り、ああっ女神さまっ然り、程度の差はあれど現実と乖離した世界で悩むキャラクターに感情移入させるものが多い。
この作品には、そういった意図はほとんど見られない。キャラクターはまるで演劇のように台詞を口にして、物語を作り上げていく。その意味では、非常に珍しい作品である。感情移入する対象はキャラクターではなくて、むしろそのシチュエーションだ。
主人公は第一話(厳密には四季大賞受賞作の読みきりのため「DEMOTRACK」となっている)のはじめにヒロインに告白をする。なんの脈絡もなく、だ。そこに至るまでの背景は連載が始まってから語られるが、それでも初めて交わす会話が告白ということには変更はない。そこから最後のセックスに至るまで、主人公は思うことをひたすらストレートに言い続ける。
さらに特異な点がある。それは、主人公とヒロインの関係は、全編においてほとんど揺るぐことはない。つまりは、ライバルの存在がほとんどないのだ。あくまでも、キャラクター二人の関係が強固になっていく過程を描くための道具にすぎない。
ストレートかつ階段を上るように安定して、順当なストーリー。それは現実にはありえない理想的で素敵なものなのだ。
生きるということは、それに伴う悩みと向き合っていくということと同義だと思う。
残念ながら、働けないとか、学校に行けないとか、そういった人間は多くの場合社会的には落伍者として扱われるらしい。
この「生きるススメ」では、そんな悩みと向き合うさまざま人々を、真正面から描いている。
肉を食べるという行為は、ほかの生きものを殺すことだという真理に気づいてしまった子供。自分の仕事に何の意味があるのだろうかわからなくなってしまった大人。こうあろうとするのに、なれない。
だから、キャラクタたちは苦悩する。それはどうして問題なのか。どうすれば、解決できるのか。
だが、その答えは作中で明かされない。
読者にも、わからないままだ。それはきっと、理由も正解もないからだ。
ただ、ヒントは示される。
描かれる苦悩は、けして他人ごとではなく、僕らのすぐそばにあるものと同じものであるはずなのだ。
そうして示される指針はきっと、生きるためにとても役に立つ。