巷で人気のあるラブコメは、ハチミツとクローバー然り、ああっ女神さまっ然り、程度の差はあれど現実と乖離した世界で悩むキャラクターに感情移入させるものが多い。
この作品には、そういった意図はほとんど見られない。キャラクターはまるで演劇のように台詞を口にして、物語を作り上げていく。その意味では、非常に珍しい作品である。感情移入する対象はキャラクターではなくて、むしろそのシチュエーションだ。
主人公は第一話(厳密には四季大賞受賞作の読みきりのため「DEMOTRACK」となっている)のはじめにヒロインに告白をする。なんの脈絡もなく、だ。そこに至るまでの背景は連載が始まってから語られるが、それでも初めて交わす会話が告白ということには変更はない。そこから最後のセックスに至るまで、主人公は思うことをひたすらストレートに言い続ける。
さらに特異な点がある。それは、主人公とヒロインの関係は、全編においてほとんど揺るぐことはない。つまりは、ライバルの存在がほとんどないのだ。あくまでも、キャラクター二人の関係が強固になっていく過程を描くための道具にすぎない。
ストレートかつ階段を上るように安定して、順当なストーリー。それは現実にはありえない理想的で素敵なものなのだ。